さて、さまざまな可能性への探索ツールであるヘミシンクですが、開発したのはロバート・モンローです。
彼はその非物質界に対する自らの体験を、3冊の本に著しています。
ロバート・モンロー(1915~1995)はアメリカ人のビジネスマンでした。その仕事は、ラジオ番組の制作を中心とした会社の経営などでした。しかしそういった素顔より、体外離脱の研究家としての彼のほうが有名かもしれません。体外離脱(Out of Body Experience : OBE)とは、
「完全に意識があるまま、自分が自分の肉体の外にいることに気がつき、いくつかの例外はあるものの、あたかも肉体的にも機能しているがごとく物事を感知したり、また行動したりすること。
自分自身を自己の肉体と区別し分離して知覚する意識の状態。その分離は五センチの場合もあれば、五千キロ以上の場合もある。また、壁や鉄板、土、海などの物質を、何の影響も受けずに、通り抜けたり動き回ることができる」
と、『魂の体外旅行』のなかでモンローは言っています。
ヘミシンクの原点とは、モンローが体験した体外離脱体験であり、その現象を解明するために始めた研究だったのです。そして、その始まりは次のようなものでした。
彼は会社経営の傍ら、睡眠学習の可能性に興味を持っていました。
その睡眠学習の可能性を探るうちに、実際の睡眠の代わりに催眠を利用することでも同等の結果が得られることを発見しました。
ラジオ番組を制作してきた音響のプロとしての経験を生かして自己催眠のための音響をテープに録音し、さまざまな内容の誘導でその効果を試しました。
内容的には、健康に関することや記憶に関するもので、テープを聴くごとにその暗示は強化されました。
テープは、被験者を完全に正常な覚醒状態に戻すような形で締めくくられました。現在のヘミシンクCDにそれはいまも受け継がれています。この実験は、何人かの被験者に対し行なわれましたが、最も頻繁に実験を行なっていた被験者は、実はモンロー自身だったのです。
そんなある日、いつものように実験を終えたモンローは、食後、腹部の激しいけいれんに襲われました。彼の家族も同じものを食べていましたが、だれも気分は悪くなっていません。
モンローは実験のときに聞いたテープに要因があるのではと考えましたが、結局その原因は分かりませんでした。
しかし後日、モンローは「おそらくそれが魔法の杖の一振りか、ハンマーの一撃だったのだろう」と語っていますが、衝撃の体験を得るのです。それは家族が教会に行って一人でいたある日曜の午後、昼寝をしようと長イスに横になり、ちょうどうつぶせになったとき、北の空から光線が差しこんだように見えたそうです。
まるで、暖かい光に打たれたかのようでした。家の北側からなので太陽光ではありません。そして、その光線を全身に浴びたモンローは、初めて体に「振動」を感じたのです。まったく動くことができず、万力にがっちり固定されてしまったかのようでした。
その振動は、その後六週間のあいだに9回同じような感じで起こりました。共通しているのは、昼でも夜でも、休むために横になった直後に始まるということでした。
不安になったモンローは医者に行きますが、何の異常も認められなかったそうです。
そこで彼が考えたのは、肉体的な原因がないのなら、きっと幻覚か夢の一種に違いない、それなら次にあの状態が起こったら、できるだけ客観的に観察してみよう、ということでした。
観察を行なうなかで、あるときその振動がモンローの体の軸を中心とした直径60センチほどの光の輪になったことがあり、目を閉じればこの光の輪は見え、頭からつま先に向かってゆっくりと降りていき、また頭へ向かう動きを、振動しながら繰り返したそうです。
そして輪が頭を通り過ぎたとき、轟音が沸きあがり、モンローは脳に振動を感じたのです。また、高い「シューッ」という音が、小さく継続的にその期間ずっと聞こえたとも言っています。
そんな振動状態が六ヶ月続いたある夜、いつものように振動が収まり眠れるのを待ちながら、だらりとベッドから落ちた右手の指を床に押しつけてみると、なんと指は床を突きぬけて、階下の天井をも貫き、まるで腕全体が床を突きぬけた感覚を体験したのです。
さらにその4週間後、ベッドでまた振動が来たとき、今度はどんなやり方でこの状態を分析しようか考えながら、当時趣味だったグライダーで空を飛ぶことに、ただその楽しさに思いを馳せたそうです。
すると一瞬の後、何かが肩に当たっていることにモンローは気がつきました。後ろを探ってみると、それは壁のように感じましたが何かが違う。まわりを見ると、光の噴水のようなものが見えました。
よくよくそれを見てみると、いつも見なれたシャンデリアであることに気がつきました。次の瞬間、自分が天井にいることに彼は気がつきました。
下を見るとベッドがあり、モンローの妻とその隣には別な誰かが寝ています。目を凝らしてよく見たモンローは、それが自分であることに気がつくのです。ほとんど反射的に、自分は死につつあると感じたモンローは、必死になって海に潜るダイバーのように急降下して自分の体に飛びこみ元に戻ったそうです。
以上がモンロー最初の体外離脱経験までの流れで、この話は『体外への旅』のなかに詳しく書かれています。徐々にその状態をコントロールするコツを覚えていったモンローでしたが、当時この体験について、彼はいろいろと人に聞いたり調べたりしましたが、納得のいく答えは得られませんでした。
そこでモンローは、その状態のことを、「第二の状態」、肉体を離れたもうひとつの体のことを「第二の体」と呼ぶこととして、体外離脱をコントロールし、理解する術を学ぶために、自ら本格的にその研究を開始し、それが後日、ヘミシンクとして開花することになるのです。