モンローは、体外離脱の研究を続けるかたわら、協力者たちの勧めもあってその成果を本にまとめ出版しました。それが1冊目の著書『体外への旅』(ハート出版)です。
モンロー自身は、正統派企業の取締役であり、ビジネスという物質界に根を下ろし働いていることに対する出版の影響について真剣に心配したようです。
ところが、かえってそういう人が書いたということで、その内容をまじめに取り上げてもらうことにつながっただけでなく、反響も大きなものがあり、問い合わせや情報、そしてさまざまな協力を得られるようになりました。モンローの体外離脱体験がもとでスタートしたその研究は、出版の影響で集まったさまざまな協力者たちにより支えられたのです。
まずモンローたちが取り組んだのは、睡眠の研究の継続からでした。なぜなら、モンロー自身も体験し、報告もされている体外離脱状態の大部分の事例が、眠りの状態を中心とするものだったからです。しかもその体外離脱体験を得るコツは、完全な覚醒と睡眠のあいだの微妙な「接線」を維持するところにありました。
ところが、被験者のほとんどは昼間は仕事を持っていたために、夜の実験のときには、電極につながれ長く退屈な時間を過ごすうちに寝てしまうか、微妙で主観的な反応を報告するだけの、リラックスに入れない状態ということが多かったのです。
そこで被験者が目を覚ました状態のまま、眠りとの中間地帯に入ることを手伝う必要性が出てきました。
その解決策としてモンローたち研究チームは、「音」を利用し始め、結果、「周波数追跡反応(FFR/Frequency Following Response)」という方法を発見するのです。
脳というのは、
- はっきりと目を覚ましている意識状態のときに出るベータ波(13ヘルツ以上)
- リラックスしている意識状態のときに出るアルファ波(8~13ヘルツ)
- 深い瞑想という意識状態のときなどに出るシータ波(4~8ヘルツ)
- 熟睡という意識状態のときなどに出るデルタ波(4ヘルツ以下)
という具合に、脳波はその周波数に応じた意識状態を示すことが分かっていたので、似たような音のパターンを聴くことは、希望する意識状態に入る手助けとなる、とモンローは考えたのです。
ヘルツ(Hz)というのは電位が一秒間に変動する数のことです。上の例のヘルツ数で分かるとおり、リラックスから眠りに向かって、変動数はしだいに低くなっていきます。しかし、人の耳に聞こえる音は20ヘルツ以上です。
実験のために被験者が必要としたのは、もっと低い周波数でしたので、そのまま音を聞かせるだけでは、アルファ、シータ、デルタといった波は再現できませんでした。
周波数追跡反応/FFRは、ある音のパターンを聞かせると、被験者の脳波に同じような電気反応が起こるというもので、これによりモンローはさまざまな音の周波数を組み合わせることで、脳波の周波数をコントロールし、リラックスや熟睡、覚醒などはもちろん、覚醒と眠りの中間状態へと被験者を導くことができるようになりました。しかも長時間その状態を保つことが可能でした。
この周波数追跡反応/FFRはバイノーラル・ビートという技術を活用したものでした。それは現在でも一般的に使用されている技術です。
まずヘッドフォンを使って右耳と左耳の聴覚を分離させた上で、左右の耳からそれぞれ若干違う周波数の音を聞かせます。例えば右耳から100ヘルツ、左耳から106ヘルツの音を聴かせると、右脳と左脳が同調して働き、106マイナス100の6ヘルツのシグナルが、第3の信号として脳内で生み出されるという技術です。
この6ヘルツというのはシータ波に相当し、深い瞑想時の状態が脳内で生み出されていることになるのです。
こうした研究によって右耳から入る信号と左耳から入る信号の差をいろいろ操作することで、さまざまな脳波の状態へと導くことができるようになりました。
また、その第3の信号は、右脳と左脳がいっしょに同調して働いた時のみ作られる信号で、この脳の両半球のシンクロ化をへミスフェリック・シンクロナイゼーション(hemispheric synchronization)と呼びました。モンローたちはその言葉を略して、「ヘミシンク/Hemi-Sync」としたのです。
しかもいったん覚えてしまえば、脳はいつでも、学んだヘミシンクのシグナルを再生することが可能でした。
つまり、CDなどにより外部からそのシグナルを聞かせなくても、脳が覚えるところまでトレーニングを積めば、いつでも自分のコントロールにより、その状態へのアクセスが可能ということなのです。
以上がヘミシンクの仕組みであり、人々の意識を変性意識へと導く、おおもとの技術なのです。